培養肉とは?仕組み・作り方・従来の肉との違いをわかりやすく解説【2025年最新】





2025年8月、関西万博のヘルスケアパビリオンで一つのイベントが開かれた。会場では目の前で培養肉が焼かれ、その香りについて参加者はこう証言した——「まさに牛肉だった」(出典:Foovo、2025年7月)。

日本ではまだ販売されていない培養肉が、万博という公の場で体験できるところまで来た。「ラボで育てた肉」はいよいよ現実の話になりつつある。

この記事では、培養肉の仕組み・作り方・従来の肉との違い・世界と日本の現状を、フードテックWatcherがわかりやすく解説する。


培養肉とは——「動物を殺さずに作る肉」

培養肉(英語:Cultivated Meat)とは、牛・豚・鶏などの動物からごく少量の細胞を採取し、体の外で培養・増殖させて作った肉のことだ。動物を屠殺する必要がないため「クリーンミート」とも呼ばれてきた。

なお2025年8月、フードテック官民協議会の細胞農業ワーキングチームは「培養肉」に代わる正式名称として「細胞性食品」を基本名称とする方針を発表した(出典:Foovo、2025年8月)。「培養」という言葉が養殖魚と混同されやすいこと、消費者への誤解を防ぐことなどが理由だ。本記事では読者になじみのある「培養肉」の表記を使いつつ、正式名称が変わりつつある点も念頭に置いてほしい。


培養肉の作り方——4つのステップ

培養肉の製造プロセスは、FAO・WHOの報告書でも整理されている通り、大きく4段階に分かれる。

ステップ1:細胞の採取

生きている動物から、筋肉のもとになる細胞(筋肉細胞や幹細胞)を少量採取する。採取は注射器で行われ、動物への負担は最小限に抑えられる。1回の採取で得た細胞から、理論上は何トンもの肉を作ることが可能だ。

ステップ2:培養液での増殖

採取した細胞を「培地」と呼ばれる栄養液に浸し、バイオリアクター(培養槽)の中で増殖させる。培地には細胞の成長に必要なアミノ酸・糖・成長因子などが含まれる。この培地のコスト削減が、培養肉の普及における最大の技術的課題のひとつだ。

ステップ3:組織の形成

増殖した細胞を足場(スキャフォールド)に乗せ、筋肉組織へと分化・成形する。バラバラな細胞の集合体(ミンチ状)では食感が出ないため、筋繊維を方向づけて「ステーキ状」の組織を作る技術の開発が各国で進んでいる。東京大学の竹内研究室は、筋線維が配向した培養ステーキ肉の作製に成功している。

ステップ4:収穫・加工

培養が完了した肉を収穫し、食品として加工する。現状ではミンチ状の製品(ナゲット・バーガーパティ)が先行しているが、ステーキや刺身のような形状を目指す研究も進んでいる。


従来の肉との違いを比較する

培養肉と従来の畜産肉は、何が同じで何が違うのか。主な観点で整理する。

比較項目 従来の畜産肉 培養肉
原材料 飼育・屠殺した動物 動物から採取した細胞
生産期間 牛で約2年 数週間〜数ヶ月
土地・水の使用 大量に必要 大幅に削減可能
温室効果ガス 排出大(牛のゲップなど) 削減が期待される
動物福祉 屠殺が前提 殺さずに生産可能
味・食感 確立されている 再現を目指し研究中
コスト 安定した市場価格 現状は高コスト
規制・安全性 既存の食品法で整備済み 各国で整備中

環境負荷・動物福祉の面では培養肉に明確な優位性があるが、コスト・味・規制の3点は現時点では課題として残る。


世界の現状——どこで食べられているか

培養肉の商業販売が始まっているのは現在、以下の国・地域だ(2025年時点)。

  • シンガポール:2020年に世界初の商業販売を承認。Eat Justの培養チキンがレストランや小売店で販売されている。
  • アメリカ:2023年にFDAとUSDAが承認。培養チキンの販売が開始。2025年3月には細胞培養した豚脂がFDA安全承認、同7月には培養豚脂肪がUSDAから販売認可を取得した(出典:Wikipedia、2025年)。
  • イスラエル:2024年1月、Aleph Farmsが世界初の培養牛肉の販売承認を取得。
  • 香港・オーストラリア:培養ウズラ(Vow社)の販売が2024年に開始。

一方で、アメリカのフロリダ州をはじめ一部の州では培養肉を禁止する法案が成立するなど、規制をめぐる動きは国・地域によって大きく異なる。

GFIの2024年レポートによれば、培養肉を購入したことのある消費者は世界でもまだ数千人規模にとどまっており、市場としてはまだ黎明期だ。ただし技術基盤は着実に進化しており、細胞株の公開リポジトリ登録数は2021年の43件から2024年には75件へと増加している(出典:Foovo、2025年5月)。


日本の現状——規制整備がようやく動き始めた

日本では現在、培養肉の販売を明確に禁止する法律も、許可する法律も存在しない。企業は「暗黙の了解」として自主的に販売を自粛している状態だ(出典:Foovo、2024年11月)。

しかし2024年11月から、消費者庁の食品衛生基準審議会・新開発食品調査部会が安全性審議を本格的に開始した。細胞農業研究機構(JACA)も2025年5月に安全性評価の指針案を消費者庁に提出するなど、官民双方からルール形成の動きが加速している。

また同年8月には消費者庁の調査部会が「細胞培養食品(仮称)」を当面の呼称として採用することで専門家の意見がまとまった(出典:日本食糧新聞、2025年10月)。名称の確定も含め、制度設計の骨格が見え始めてきた段階だ。

国内スタートアップのインテグリカルチャーは独自の細胞培養技術「CulNet System」を開発し、2027年の国内上市を目指している。国内での培養肉市場の本格立ち上がりは「2030年頃」という見通しが業界内では有力だ。


まとめ——培養肉は「遠い未来」ではなく「近い現実」

培養肉は動物細胞を培養して作る新しい食肉技術だ。環境負荷・動物福祉の観点から世界的に注目が集まり、すでに一部の国では商業販売が始まっている。

日本では規制整備がようやく動き始めた段階だが、2027〜2030年の市場化を目指す企業が現れており、着実に現実に近づいている。

「ラボで育てた肉」が食卓に並ぶ日は、思ったより早く来るかもしれない。


📚 培養肉をもっと深く知りたい方へ

ポール・シャピロ著『クリーンミート——培養肉が世界を変える』(日経BP)は、培養肉産業の誕生から現状までを追ったルポルタージュ。技術・投資・倫理・文化的側面まで網羅した一冊で、フードテックWatcherが最初に読んだ本でもある。

Amazonで詳細を見る(書籍アフィリエイトリンクをここに設置)


【参考・出典】

  • GFI「2024 State of the Industry: Cultivated meat, seafood, and ingredients」(2025年)
  • Foovo「目の前で焼かれる培養肉、その香りはまさに牛肉だった|関西万博レポート」(2025年7月)
  • Foovo「培養細胞を原料とする食品、『細胞性食品』を基本名称に」(2025年8月)
  • Foovo「日本の培養肉市場に明確なルールを:JACAが提言」(2024年11月)
  • 日本食糧新聞「消費者庁、呼称は『細胞培養食品(仮称)』」(2025年10月)
  • 東京大学 竹内研究室「培養肉・培養ステーキ肉の実現」
  • FAO/WHO「Food safety aspects of cell-based food」

コメント

タイトルとURLをコピーしました