2025年は、世界のフードテック業界にとって「規制承認の年」だった。培養肉・精密発酵・代替油脂の分野で相次いで販売認可が下り、「ラボで作った食品」がスーパーの棚に並ぶ現実が加速した一年だ。
海外メディアGreen Queenが選ぶ「2025年フードテック10大トレンド」(出典:Green Queen、2025年12月)をベースに、フードテックWatcherが日本語で解説・整理する。これらのトレンドが日本の食卓にどう届くのか、最後に展望もまとめた。
① 培養肉——2025年は「規制承認ラッシュ」の年
2025年ほど多くの培養肉・細胞性食品が規制承認を受けた年は、過去に例がないと報告されている(出典:Green Queen、2025年12月)。
米国では、Wildtype(培養サーモン)・Mission Barns(培養脂肪)がFDA・USDAの認可を取得し、実際にレストランや小売店での販売を開始。アジアではシンガポールがParima社の培養鶏肉に2回目の承認を付与し、オーストラリア・ニュージーランドではVow社の培養ウズラが正式に食品基準コードに収載された。
一方で影の部分もある。Believer Meats(イスラエル)は認可取得後に事業閉鎖を発表。培養肉先駆者のShiok Meatsはライバル企業Umami Bioworksに吸収された。「承認さえ取れれば成功する」わけではなく、コスト・スケール・消費者受容という実際のビジネスの壁が2025年も立ちはだかった。
② 精密発酵——7大資金調達のうち7件が発酵スタートアップ
2025年のフードテック投資において、最も存在感を示したのが発酵分野だ。上位10件の大型資金調達のうち7件を発酵スタートアップが占め、代替タンパク業界全体が投資冬の時代にある中で発酵分野だけが際立った底堅さを示した(出典:Green Queen、2025年12月)。
代表的な案件を挙げると、米The Every Company(精密発酵卵白)が5,500万ドルを調達。ドイツFormo(麹菌を活用した動物フリー乳製品)が3,500万ユーロを調達し、日本のオイシックス・ラ・大地のCVCもFormoへの投資を通じて欧州精密発酵に参入した。
イスラエルでは精密発酵のImagindairyとRemilkが地元大手食品企業と提携し、精密発酵由来の乳タンパクを使った製品が実際に市場に登場している。
③ 代替油脂——「脱パーム油・脱動物性脂肪」が次のフロンティアに
2025年に急速に注目度が上がったのが代替油脂の分野だ。環境負荷が高いパーム油や動物性脂肪の代替として、発酵・微生物・CO2由来の油脂を開発するスタートアップが続々と資金を調達・製品化した(出典:Green Queen、2025年12月)。
Savor(米)はCO2と水素を原料に「炭素由来のバター」を米国市場で発売。Nourish Ingredients(豪)は発酵由来の動物性脂肪代替品の米国販売認可を取得し、欧州にグローバルハブを設立。NoPalm Ingredientsは複数のパートナー契約と新工場建設を発表した。
「肉の代替」の次は「油脂の代替」——食品製造における動物性原料の置き換えが、タンパク質から脂質にも広がってきた。
④ 代替卵——鳥インフルで卵価格が高騰、スタートアップに追い風
2025年は鳥インフルエンザによる大規模な鶏の淘汰が続き、アメリカでは卵価格が史上最高値を更新した。この状況が図らずも「代替卵」スタートアップへの追い風になった(出典:Green Queen、2025年12月)。
Revyve・Meala・MOA Foodtech・The Very Food Coなど複数のスタートアップが、鶏卵に代わる機能性代替卵素材を相次いで発表。特に大豆のリョクトウを原料とする「Just Egg」(Eat Just社)は、卵価格高騰を追い風に過去最高の売上成長を記録した。
⑤ 欧州スーパーが「タンパク質比率目標」を設定
欧州で画期的な動きがあった。Lidlが2025年に植物性食品の売上を全世界で20%増やすことを公約し、Albert Heijn・Rewe Group・Wolt Marketなど複数の大手スーパーチェーンが「タンパク質の調達比率目標(プロテインスプリット)」を設定した(出典:Green Queen、2025年12月)。
「植物性と動物性を混ぜたハイブリッド食品」の棚も広がっており、ミンチ肉に植物性タンパクを30%混ぜた「ブレンドミート」などが欧州の主要スーパーで普及し始めた。消費者に「完全に代替する」ではなく「少しずつ移行する」選択肢を提供するアプローチだ。
⑥ 代替コーヒー・カカオ——気候変動が原材料を直撃
コーヒーとカカオはどちらも気候変動による生産地の収量減少に直撃されており、原材料価格が高騰している。Nestléやpladisなど大手菓子メーカーは、カカオ含有量が法定基準を下回る製品から「チョコレート」という名称を外さざるを得ない事態に追い込まれた(出典:FoodNavigator、2025年)。
この状況を受け、豆を使わない代替コーヒーのスタートアップへの投資も拡大。Seattle発のAtomo(分子コーヒー)が780万ドルを調達し英国展開を開始。シンガポールのPreferは味の素などとのパートナーシップを発表した(出典:Green Queen、2025年12月)。
⑦ FoodTech 500——AgTech35%、発酵が躍進
世界のフードテック企業ランキング「FoodTech 500(2025年版)」は87カ国1,200社以上の応募から選抜された。AgTech(農業テック)が全体の35%を占めてトップカテゴリーになり、次世代食品・飲料が23.6%と続く。80%の企業が収益を上げており、74%だった前年より改善。投資冬の時代を乗り越えた「生き残り組」の実力が問われる段階に入っている(出典:Forward Fooding、2025年)。
1位はゲノム編集による次世代農業を手がける米Pairwise、2位は都市型垂直農場の米80 Acres Farms、3位は菌糸体発酵の米MycoTechnologyだった。
日本への影響——「海外で起きていること」は3〜5年後に日本に来る
フードテックウォッチャーとして一言添えておきたい。上記のトレンドはどれも「今すぐ日本の食卓に届く話」ではない。しかし、過去のフードテックの歴史を振り返ると、海外で起きた変化は概ね3〜5年後に日本市場に波及してきた。
精密発酵由来の乳タンパクが米国スーパーに並んだ2025年——日本で同様の製品が登場するのは、おそらく2028〜2030年頃だろう。代替コーヒー・代替カカオの国内展開も、インバウンド市場や意識の高い消費者層を起点に2026〜2027年頃から始まる可能性がある。
このサイトでは、海外の「今」を日本語でいち早く届けながら、「日本のいつ」につながるのかを読み解いていく。次回更新もお楽しみに。
【参考・出典】
- Green Queen「2025 Wrapped: The Top 10 Food Tech Wins of the Year」(2025年12月)
- Forward Fooding「FoodTech 500 2025」(2025年)
- FoodNavigator「Food tech trends 2025」(2025年)
- Foovo「2025年のフードテックを振り返る」(2025年12月)

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