リージョナルフィッシュとは?ゲノム編集魚で養殖を変える京大発スタートアップを徹底解説【2026年最新】

日本のフードテック





「天然のマダイと養殖のマダイ、どちらがおいしいと思いますか?」——リージョナルフィッシュの梅川忠典社長がよく使う問いかけだ。多くの人が「天然」と答える。では「天然のヘビイチゴとあまおうイチゴ、どちらが?」と聞くと、「あまおう」と答える。この違いは品種改良が進んでいるかどうか——魚にも同じことができると確信した起業家が立ち上げたのがリージョナルフィッシュだ(出典:Diamond Online、2022年)。

2021年に世界初のゲノム編集動物食品を市場に送り出し、2023年に210億円の大型資金調達を実現。「日本の水産業をゲノム編集で変える」という野心的な挑戦の全容をフードテックWatcherが解説する。


リージョナルフィッシュとは——会社概要

項目 内容
設立 2019年
本社 京都府京都市(京都大学国際科学イノベーション棟)
代表 梅川忠典(代表取締役社長)
主な技術 ゲノム編集による超高速品種改良・スマート陸上養殖
主な製品 22世紀鯛・ノリソダチ(トラウト)・22世紀ふぐ・22世紀ひらめ
調達総額 約210億円(2023年時点)

京都大学大学院農学研究科の木下政人准教授・近畿大学水産研究所の家戸敬太郎教授らの共同研究から生まれた技術シーズをコアに設立された京大発スタートアップだ(出典:welzo、2025年)。社名の「リージョナルフィッシュ(Regional Fish)」には「地魚の定義を変える」という創業者の想いが込められている。


核心技術——ゲノム編集による「超高速品種改良」

リージョナルフィッシュの競争力の源泉は、CRISPR/Cas9に代表されるゲノム編集技術を使った品種改良の「超高速化」だ。

従来の品種改良は交配を繰り返すため、魚類では数十年かかる場合もある。ゲノム編集を使えば特定の遺伝子をピンポイントで狙い、数年で目的の形質を持つ品種を作れる。外来遺伝子を使わない「SDN-1型」のゲノム編集なので、日本の規制では安全審査不要・届出のみで食品として販売できる(詳しくはゲノム編集食品とは?を参照)。

さらにリージョナルフィッシュはスマート陸上養殖との組み合わせで効果を最大化する戦略を取る。IoTセンシング・AIデータ分析・自動管理を組み合わせたスマート養殖システムとゲノム編集魚を掛け合わせることで、生産コストを従来の4分の1に削減することを目指している(出典:日経クロステック Special)。


製品ラインナップ——すでに食卓に届く「22世紀シリーズ」

① 22世紀鯛(マダイ)

リージョナルフィッシュの看板製品。成長を抑制する「ミオスタチン遺伝子」をゲノム編集で働かなくし、可食部が通常のマダイより約1.2倍増加した。飼料消費量は約2割削減できる。2021年9月に一般向け販売を開始し、「国の手続きを経て上市するゲノム編集動物食品としては世界初」とされる(出典:welzo)。クラウドファンディングでは目標額の320%を達成した。

② ノリソダチ(トラウト)

同じくミオスタチン遺伝子をゲノム編集したニジマス系トラウト。通常より成長速度が約2倍と速く、飼料効率も大幅に改善された。陸上養殖との組み合わせで、内陸部・都市近郊での生産を可能にする。

③ 22世紀ふぐ・22世紀ひらめ

マダイに続いてトラフグとヒラメでも同様の品種改良を実施・上市。高単価な魚種での展開は収益性確保の観点でも重要だ。温泉水や太陽光発電を活用した陸上養殖との組み合わせも研究が進んでいる(出典:日経)。

今後の品種開発——エビ・ウニへの展開

現在はエビ・ウニなどの品種改良にも取り組んでいる(出典:日経)。養殖困難とされていた高付加価値魚種へのゲノム編集適用が実現すれば、日本の水産業に与えるインパクトはさらに大きくなる。


資金調達と評価——210億円調達で「日本の水産テック筆頭」へ

2023年にリージョナルフィッシュは総額210億円という水産テックスタートアップとしては異例の大型資金調達を実施した。農林中央金庫・地方銀行・事業会社など複数の投資家が名を連ねており、「日本の水産業の未来への投資」として業界内で高い評価を受けた。

2025年9月のICC KYOTO 2025では「カタパルト・グランプリ優勝」を達成。国内スタートアップの登竜門とも言われる同大会での優勝は、事業の説得力と将来性の高さを示している(出典:ICC、2025年)。

農林水産省のオープンイノベーション大賞では農林水産大臣賞を受賞しており、政府からも期待の大きさが伺える(出典:Transia、2025年)。


地域連携——「地魚の定義を変える」地域ブランド戦略

リージョナルフィッシュの戦略で際立つのが地域連携へのこだわりだ。ゲノム編集魚の養殖拠点を全国の地方に分散させ、各地の遊休施設・温泉水・再生可能エネルギーを活用したスマート陸上養殖を展開する。

「広島○○鯛」「北海道○○フグ」のように新品種が地域ブランドとして定着すれば、地域の漁業者にとっても受け入れやすい。既存の漁業者・業界団体との関係については「対立より共創のムードが強まりつつある」と報告されており、業界全体を巻き込んだ変革を目指している(出典:Transia、2025年)。

インテグリカルチャーが目指す「地方創生型の細胞農業」と同様、リージョナルフィッシュも「テクノロジーを地方に分散させる」モデルは、日本ならではのフードテックアプローチとして注目に値する。


課題——消費者の理解と市民団体の懸念

リージョナルフィッシュが直面する最大の課題は消費者の受容性だ。ゲノム編集魚は規制上問題がなく、すでに販売されているにもかかわらず、「遺伝子組み換えと同じでは?」という誤解が根強い。

2025年3月には市民団体が「安全性が未確認のままゲノム編集魚を全国展開している」として院内集会を開催し、国への要請活動を行った(出典:長周新聞、2025年)。大量の公的補助金が投入されているという指摘もある。

一方で同社は「消費者への丁寧な説明」を重視しており、製品の仕組み・安全性の根拠を積極的に発信し続けている。「食べてみた」という体験の積み重ねが受容性向上の最短ルートだと梅川社長は語る。


まとめ——「魚の品種改良革命」はもう始まっている

リージョナルフィッシュは「ゲノム編集」と「スマート養殖」を組み合わせ、日本の水産業が直面する担い手不足・生産コスト高・資源枯渇という三重苦にテクノロジーで挑む企業だ。210億円の調達・ICC優勝・農水省の大臣賞と、外部からの評価も高い。

「22世紀鯛」はすでに食べられる。スーパーの鮮魚コーナーや通販でゲノム編集魚が手に入る時代は、遠い未来ではなく今ここにある。


【参考・出典】

  • Diamond Online「”ゲノム編集マダイ”で注目、20億円超調達の京大発スタートアップ」(2022年)
  • 日経クロステック Special「ゲノム編集とスマート養殖が水産業に革命を起こす」
  • welzo「リージョナルフィッシュ株式会社へ出資」(2025年10月)
  • ICC「リージョナルフィッシュがカタパルト・グランプリ優勝」(2025年)
  • Transia「常識を覆す『22世紀の魚』——ゲノム編集で挑む水産業の未来」(2025年)
  • 長周新聞「ゲノム編集魚流通に膨大な公的支援」(2025年3月)
  • 日経「リージョナルフィッシュの現状と将来性」(2026年)

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