ゲノム編集食品とは?遺伝子組み換えとの違い・日本の規制・安全性を解説【2025年最新】

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スーパーの野菜コーナーに「GABAトマト」という商品が並んでいるのを見たことはないだろうか。このトマトはゲノム編集技術を使って開発されたものだ。2021年から日本での販売が始まり、日本は世界に先駆けてゲノム編集食品の商業化を実現した数少ない国のひとつとなった。

ところが「ゲノム編集って遺伝子組み換えと同じじゃないの?」「安全なの?」という疑問を持つ人は少なくない。この記事でフードテックWatcherが、ゲノム編集食品の基本から日本の最新動向まで正確に整理する。


ゲノム編集とは——「遺伝子を書き換える」のではなく「ピンポイントで切る」技術

ゲノム編集とは、生物が持つDNA(ゲノム)の特定の箇所をピンポイントで切断し、意図した変異を起こす技術だ。代表的なツールが2020年にノーベル化学賞を受賞したCRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)だ。

最も直感的なたとえは「遺伝子のハサミ」だ。狙った場所をハサミで切ると、生物の自然な修復機能が働き、その過程で目的の変異が生まれる。外から別の生物の遺伝子を持ち込むのではなく、その生物自身が持つ遺伝子の機能を調整する点が大きな特徴だ。


遺伝子組み換えとの違い——ここが最重要ポイント

「ゲノム編集=遺伝子組み換えの一種」という誤解が根強いが、この2つは目的も仕組みも本質的に異なる。

比較項目 遺伝子組み換え(GM) ゲノム編集(外来遺伝子なし)
操作の内容 他の生物の遺伝子を挿入する 自身の遺伝子の特定箇所を切断・変異させる
外来遺伝子 あり(別の生物の遺伝子が残る) なし(自然突然変異の範囲内)
自然との違い 自然では起こりえない変化 紫外線などで生じる自然突然変異と同等
日本の規制 安全性審査が必要(食品衛生法) 審査不要・届出のみ(外来遺伝子なしの場合)
表示義務 あり(遺伝子組換えと表示) なし(届出は任意の情報提供)

農研機構は「外来遺伝子を組み入れていないゲノム編集食品は、遺伝子組み換え食品とは異なり、従来の育種と比べて遺伝子の変化に差がないため審査は不要」と説明している(出典:農研機構)。つまり「自然な品種改良の大幅な高速化」と考えるのが最も近い。

なお、外来遺伝子を挿入するタイプのゲノム編集(SDN-3型)は従来の遺伝子組み換えと同様の規制対象となるため、全てのゲノム編集が規制不要というわけではない。


日本で販売されているゲノム編集食品

日本は世界に先行してゲノム編集食品の商業化を実現した国のひとつだ。2021年は「日本のゲノム編集食品元年」と呼ばれ、複数の製品が相次いで上市された(出典:日本農芸化学会誌「化学と生物」)。

① 高GABAトマト「シシリアンルージュ ハイギャバ」(サナテックシード)

筑波大学発スタートアップのサナテックシードが開発。GABA生合成に関わるGAD酵素遺伝子をゲノム編集し、通常のトマトの4〜5倍のGABAを含む。GABAは脳の興奮を鎮めて緊張・ストレスをやわらげる働きが報告されており、血圧上昇抑制効果も期待されている(出典:農研機構)。2021年9月から通常商品として販売開始。2025年時点でオンラインや一部小売店で購入可能だ。

② 可食部増量マダイ「22世紀鯛」・高成長トラウト「ノリソダチ」(リージョナルフィッシュ)

京都大学発スタートアップのリージョナルフィッシュが開発。「22世紀鯛」は成長を抑制する遺伝子をゲノム編集で働かなくし、通常のマダイより可食部が約1.2倍に増えた。飼料消費量も2割削減できる。「国の手続きを経て上市するゲノム編集動物食品は世界初」とされる(出典:事業構想オンライン、2021年)。同社は2023年に総額210億円の大型資金調達を実施し、陸上養殖との組み合わせで生産規模拡大を進めている。


安全性と消費者の懸念——両論を正確に伝える

政府・科学者の立場

日本政府は「外来遺伝子が残存しない外科的ゲノム編集(SDN-1型)」については、安全性審査を不要と判断している。変異が自然突然変異の範囲内であることが根拠だ。規制当局・多くの科学者はこの立場を支持している。

消費者・市民団体の懸念

一方で、複数の消費者団体や市民グループが懸念を示していることも事実だ。主な懸念点は「目的外の遺伝子が壊れるオフターゲット変異のリスク」「表示義務がなく消費者が選択できない」「自然環境への流出リスク」などだ(出典:OKシードプロジェクト、コープ自然派)。

2025年2月には市民団体が「安全性が未確認のままゲノム編集魚を全国展開している」として院内集会を開催(出典:長周新聞、2025年3月)。リージョナルフィッシュをめぐって市民と企業の対立が続いており、消費者理解の形成が課題として残っている。

フードテックWatcherの視点

科学的な安全性評価と消費者の受容性は別の問題だ。規制当局が「安全」と判断しても、消費者が「食べたくない」と感じれば市場は広がらない。北海道大学の石井哲也教授の2025年の研究でも、「日本の消費者の大多数はゲノム編集について十分な知識を持っていない」と報告されており、丁寧なリスクコミュニケーションが普及の鍵を握っている(出典:Frontiers in Genome Editing、2025年9月)。


世界の動向——各国の規制はバラバラ

ゲノム編集食品への規制アプローチは国によって大きく異なる。日本・米国・カナダ・ブラジルなどは比較的規制が緩く、外来遺伝子なしのゲノム編集は遺伝子組み換えとは区別して扱う。一方、EUは現在規制緩和の議論中で、従来は遺伝子組み換えと同等の規制を適用してきた。イタリアは2023年に培養肉とともにゲノム編集食品の販売を禁止する法案を可決している。

農林水産省のロードマップでは「ゲノム編集による新たな商品の開発・販売」と「消費者理解を増進する活動」を2025年度以降も継続的に推進するとしており、日本は引き続きゲノム編集食品の先進国として産業育成を進める方針だ(出典:農林水産省「フードテックをめぐる状況」)。


まとめ——「遺伝子組み換えとは違う」を正確に理解する

ゲノム編集食品は「遺伝子組み換えの進化版」ではなく、「品種改良の超高速化」だと理解するのが最も正確だ。外来遺伝子を挿入しない限り、自然界で起こりうる変異の範囲内にとどまる。

日本はゲノム編集食品の制度整備・商業化で世界をリードしている希少な国だ。GABAトマト・22世紀鯛・ゲノム編集トラウトと、すでに手に入る製品も登場している。

一方で消費者の理解・受容性はまだ十分ではない。「知った上で選ぶ」環境を整えることが、日本のゲノム編集食品産業が持続的に発展するための条件となるだろう。


【参考・出典】

  • 農研機構「ゲノム編集で健康によいトマトが誕生」
  • 農林水産技術会議「ゲノム編集食品はどのように開発されていますか?」
  • 農林水産省「フードテックをめぐる状況」(2024年11月)
  • 日本農芸化学会「化学と生物:ゲノム編集食品の取り扱いに関するルール」
  • 事業構想オンライン「品種改良を超高速化、食糧問題を解決」(2022年)
  • Ishii, T. (2025) “Consumer choices regarding genome-edited food crops: lessons from Japan” Frontiers in Genome Editing
  • 長周新聞「ゲノム編集魚流通に膨大な公的支援」(2025年3月)

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