マイコプロテイン(菌糸体タンパク)とは?Quorn・Meati Foodsなど最新動向を解説【2026年最新】

代替タンパク・発酵テック





代替タンパクの中で「最も肉に近い食感」を持つとされる素材がある。牛でも大豆でもなく、キノコの「菌糸体」から作られるマイコプロテイン(Mycoprotein)だ。

英国では1985年から「Quorn(クォーン)」ブランドで販売が続き、40年以上の食経験を持つ唯一の代替タンパクだ。近年は米Meati Foodsや独Infinite Rootsなど次世代企業が「ホールカット(塊肉)」の再現に挑み、2026年5月の月次まとめでも取り上げた英Adamo Foodsが約18億円の助成金を獲得するなど、菌糸体ステーキの商業化競争が加速している。

この記事ではマイコプロテインの仕組み・栄養・代表企業・日本での動向まで整理する。


マイコプロテインとは——「キノコの根」を食べるという発想

マイコプロテイン(Mycoprotein)とは、糸状菌(フィラメント菌)の菌糸体を大量培養し、食品原料として利用するタンパク質素材だ。「マイコ(Myco)」はギリシャ語で「菌類」を意味する。

菌糸体とは、キノコの「根」にあたる部分で、土の中や基質の中に広がる糸状の構造体だ。この糸状の構造が、植物性タンパクにはない「肉の繊維感」に近い食感を生み出すのがマイコプロテイン最大の特徴だ。

製造プロセスはシンプルだ。糸状菌を発酵タンク(バイオリアクター)でグルコース・栄養素とともに培養し、増殖した菌糸体を収穫・加熱処理・成形して食品に仕上げる。培養期間は数日〜数週間と短く、畜産に比べてはるかに効率的だ。

なお「精密発酵」とは区別が必要だ。精密発酵は微生物に目的の成分(乳タンパクなど)を「作らせる」技術だが、マイコプロテインは菌糸体そのものを「食べる」技術——「バイオマス発酵」に分類される(詳しくは精密発酵とは?を参照)。


マイコプロテインの栄養——高タンパク・食物繊維・低脂質の三拍子

マイコプロテインは栄養バランスが優れている。Quornの製品データを例に挙げると、乾燥重量の約45%がタンパク質で、必須アミノ酸を網羅している。さらに以下の特徴がある。

  • 食物繊維(キチン・グルカン)が豊富:菌糸体の細胞壁に含まれるキチン・βグルカンは腸内環境改善・免疫調整への効果が研究されている
  • 低脂質・低カロリー:同量の牛肉と比べてカロリーが大幅に低い
  • コレステロールゼロ:動物性脂肪を含まない
  • 飽和脂肪酸が少ない:心血管系への配慮が必要な人にも適している

ただし注意点もある。一部の人に菌類(カビ)アレルギー反応が出る可能性があること、またキチンの消化吸収には個人差がある。初めて食べる際は少量から試すことを推奨する。


代表企業——Quornから次世代スタートアップまで

① Quorn(クォーン)——40年の実績を持つ業界の元祖

英国のMarlow Foodsが展開するQuornは、1985年に初めて市販化されたマイコプロテイン食品の先駆者だ。フュザリウム・ベネナタムという糸状菌を独自の連続発酵プロセスで培養し、ミンチ・ナゲット・フィレなど多彩な製品ラインを持つ。現在は世界20カ国以上で販売されており、フィリピンの大手食品企業Monde Nissinが親会社だ。

ただし近年は苦戦も伝えられている。代替肉市場全体の低迷を受けてコスト上昇・売上減少が重なり、2022年度には約28億円の赤字を計上した(出典:Framtiden、2023年)。40年のブランド力を背景に製品ラインの多様化・スナック展開などで巻き返しを図っている。

② Meati Foods(米国)——「ホールカット菌糸体肉」で急成長

2019年創業の米スタートアップ。糸状菌の菌糸体を培養し、チキンフィレ・ステーキのような「塊肉型」のマイコプロテイン製品「Eat Meati」シリーズを展開する。2025年1月時点で米国の約380店舗で販売されており、2024年の収益が前年比でほぼ倍増・売上総利益がプラスに転じる見通しと報告されている(出典:Foovo、2025年1月)。

FoodTech 500(2025年版)では世界3位にランクインしており、マイコプロテイン分野では最も勢いのある企業のひとつだ。The Better Meat Co.との特許訴訟を抱えながらも市場投入を拡大しており、「次のQuorn」候補として注目度が高い。

③ Adamo Foods(英国)——菌糸体ステーキのスケールアップへ

2026年5月のフードテックニュースまとめでも取り上げた英国のスタートアップ。欧州プロジェクトで約18億円(1,000万ユーロ以上)の助成金を獲得し、菌糸体ステーキの大規模生産に向けて動き出した(出典:Foovo、2026年5月)。「最もステーキに近い食感」を追求するアプローチで差別化を図っている。

④ Infinite Roots(独国)——アジア市場への展開を加速

旧称Mushlabs。ドイツ発の菌糸体スタートアップで、2024年に韓国の大手食品メーカーPulmuoneと共同開発した菌糸体由来の代替肉を韓国で発売。欧州・アジア双方での市場開拓を進めている(出典:Foovo)。

⑤ Planetary(スイス)——製糖会社向けライセンスで量産化

2026年5月のニュースまとめで紹介した通り、約44億円を調達し製糖会社向けライセンスでマイコプロテインの量産化を進めている(出典:Foovo、2026年5月)。B2Bライセンスモデルは製造コストの早期回収という観点で注目のアプローチだ。


市場規模と成長予測

マイコプロテインの世界市場規模は2025年に約6億8,000万米ドル、2032年には約12億1,000万米ドルへCAGR 8.63%で成長する見通しだ(出典:GII、2026年4月)。代替タンパク全体の成長率と比べると控えめだが、「確実に成長している」分野だ。菌株最適化・バイオリアクター設計の革新で収量・均一性が向上し、生産コストが低下しつつあることが成長の背景にある。

日本の動向——アグロルーデンスがコメ由来マイコプロテインを量産開始

日本では2025年5月、アグロルーデンスがコメ由来のマイコプロテインの量産を開始した。鶏むね肉に近い組成でひき肉状のため、和洋中の惣菜など汎用性が高いと報告されている(出典:日本食糧新聞、2025年5月)。国産原料を使ったマイコプロテインの登場は、食品加工業者の調達選択肢を広げる意味で注目だ。

日本ではまだQournの輸入品以外に選択肢が少ないのが現状だが、欧州でスケールアップが進めば輸入コストが下がり、2028〜2030年頃には選択肢が増える可能性がある。


植物性代替肉・精密発酵との比較——マイコプロテインの立ち位置

比較項目 植物性代替肉 マイコプロテイン 精密発酵
食感の肉らしさ △(ミンチ系◯) ◎(繊維感あり) ◯(成分は同一)
日本での入手 ◎ 今すぐ可 △ 輸入品のみ ✕ 未販売
食物繊維 ◎(キチン・グルカン)
コスト 低〜中 中〜高
技術成熟度 ★★★★★ ★★★★☆ ★★★☆☆

まとめ——「40年の実績」と「次世代技術」が共存する分野

マイコプロテインはQuornの40年という圧倒的な食経験を持ちながら、Meati・Adamo・Infinite Rootsなど次世代スタートアップが「ホールカット肉の再現」という新たな挑戦を続けている分野だ。

植物性代替肉より肉の食感に近く、精密発酵よりも早く商業化が進んでいる——代替タンパクの中でコストパフォーマンスと実用性のバランスが最も取れたカテゴリーのひとつといえる。日本での普及は2028年以降が現実的な見通しだが、海外では今すぐ体験できる素材だ。


【参考・出典】

  • GII「マイコプロテイン市場 市場規模 分析 予測 2026-2032年」(2026年4月)
  • Foovo「米Meati Foods、菌糸体由来の朝食向け代替肉をスーパーマーケットで発売」(2025年1月)
  • Foovo「英Adamo Foods、菌糸体ステーキのスケールアップへ|約18億円の助成金獲得」(2026年5月)
  • Foovo「スイスのPlanetaryが約44億円調達」(2026年5月)
  • Framtiden「マイコプロテイン大手のQuorn、英国・米国の代替肉売り上げ減少で苦戦」(2023年)
  • 日本食糧新聞「アグロルーデンス、コメ由来代替肉『マイコプロテイン』量産開始」(2025年5月)

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