2026年9月、世界初の「精密発酵専用乳タンパク製造工場」がインドで機械的完成を迎える。建設しているのは米カリフォルニア州発のスタートアップ・Perfect Dayだ。
「牛を使わずに、牛乳と同じホエイタンパクを作る」——この一見不可能に思えることを、精密発酵というバイオテクノロジーで実現し世界市場をリードするのがPerfect Dayだ。精密発酵分野の先駆者にして業界最大手、その全貌をフードテックWatcherが解説する。
Perfect Dayとは——会社概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立 | 2014年(旧社名:Muufri) |
| 本社 | 米国カリフォルニア州バークレー |
| 共同創業者 | Ryan Pandya・Perumal Gandhi |
| 主な製品 | ProFerm™(精密発酵ホエイタンパク・β-ラクトグロブリン) |
| FDA承認 | 2020年(精密発酵乳タンパクとして世界初) |
| 主な販売先 | 米国・インド・シンガポール・コロンビア・イスラエル・UAE |
創業者2人が「動物を傷つけずに乳製品を作りたい」という倫理的動機から立ち上げたスタートアップで、2020年にFDAから精密発酵乳タンパクとして世界で初めて規制承認を取得した先駆者だ(出典:Synthesis Capital)。
Perfect Dayの技術——「牛のDNAを持つ微生物」が乳タンパクを作る
Perfect Dayが作るのはβ-ラクトグロブリン(BLG)と呼ばれる乳タンパクだ。牛乳に含まれるホエイタンパクの主成分で、筋肉合成・免疫機能に重要な役割を果たす。
製造プロセスを噛み砕くと以下の通りだ。
- 牛のBLGタンパクをコードするDNA配列を取り出す
- そのDNA配列を酵母(またはトリコデルマ菌)に組み込む
- 遺伝子組み換えした微生物を発酵タンクでグルコースとともに培養する
- 微生物がBLGタンパクを生産・分泌する
- タンパクを精製・乾燥してパウダー状に仕上げる
できあがった製品「ProFerm™」は牛乳由来のホエイタンパクと分子レベルで同一だ。牛を一頭も使わずに作られているにもかかわらず、栄養成分・機能性・味は従来のホエイと区別がつかない。さらに通常のホエイタンパク(WPI)よりロイシン含有量が37%高いという栄養的優位性もある(出典:PricePlow、2026年7月)。
市場展開の最新状況——インド工場が2026年に稼働開始
Perfect Dayの最大のニュースは世界初の精密発酵専用乳タンパク製造工場の建設だ。インドのグジャラート州に建設中のこの工場は、2026年9月に機械的完成・2026年Q4に初の商業出荷を予定している。年間約2,000メートルトンのBLG生産能力を持つ垂直統合型の施設で、スプレードライ・粒子径制御・造粒まで一括処理できる(出典:PricePlow、2026年7月)。
この工場の意義は大きい。これまでPerfect Dayは製造を外部の発酵受託企業に委託していたが、専用工場の稼働でコスト削減・品質管理・供給安定性が大幅に向上する。
規制承認の状況も着実に前進している。
- 米国:2020年にFDA GRAS承認取得・商業販売中
- インド・シンガポール・コロンビア・イスラエル・UAE:承認済み
- カナダ・EU・英国・韓国・その他アジア・南米・中東:申請中(出典:PricePlow、2026年7月)
2026年2月には大規模な供給契約を締結し、食品・飲料メーカーへの精密発酵ホエイタンパクの供給が本格化している(出典:DataM Intelligence、2026年)。
消費者向け製品——どんな食品に使われているのか
Perfect DayのBLGは主にB2Bで食品メーカーへ供給され、様々な消費者向け製品に採用されている。
アイスクリーム・乳製品
Perfect Day自身が子会社「The Urgent Company」を通じてアイスクリームブランド「Brave Robot」を展開しており、米国のスーパーマーケットで販売中。通常の乳製品アイスと同等の食感・風味を実現しながら「牛由来成分ゼロ」を謳う(出典:精密発酵とは?記事参照)。
プロテインパウダー・スポーツ栄養
「ProFerm™」ブランドでスポーツ栄養向けのB2B供給が急拡大している。従来のホエイより高いロイシン含有量・クリアな溶解性・熱安定性という機能的優位性が、プロテインサプリメントメーカーから評価されている。牛由来の乳タンパク市場が供給ひっ迫・価格高騰に苦しむ中、安定調達できる代替源として需要が拡大している。
チーズ・その他乳製品
カゼインタンパクを精密発酵で作る企業(New Culture・Formo・Standing Ovationなど)との協力関係も発展しており、動物フリーチーズへの展開も研究が進む。
競合——精密発酵乳タンパク市場の勢力図
Perfect Dayが開拓した精密発酵乳タンパク市場には、次々と競合が参入している。
| 企業名 | 国 | 特徴 |
|---|---|---|
| Perfect Day | 米国 | 業界先駆者・BLGに特化・インド工場建設中 |
| Remilk | イスラエル | カナダで食品初認定取得・大規模商業化へ |
| Imagindairy | イスラエル | 大手Strauss Groupと提携・10万Lタンク設備 |
| Vivici | デンマーク | Novonesis発スピンオフ・欧州市場をリード |
| Standing Ovation | フランス | 2026年3月にシリーズBで3,420万ドル調達 |
| Formo | ドイツ | 動物フリーチーズに特化・日本のオイシックスも出資 |
精密発酵タンパク市場全体は2025年に約65億ドルに達し、2035年には約1,805億ドル(CAGR 39.3%)への急成長が予測されている。Perfect DayはこのうちBLG分野で「最も商業化が進んだ企業」として業界をリードする(出典:DataM Intelligence、2026年)。
日本での動向——まだ「遠い存在」
残念ながらPerfect DayのProFerm™は日本では現時点で販売・承認されていない。精密発酵乳タンパクは日本では「新開発食品」として消費者庁の審査が必要で、規制枠組みの整備自体がまだ途上にある。
ただし間接的なつながりはある。オイシックス・ラ・大地がドイツのFormoに投資したほか、キリンホールディングスが関連技術分野での研究を進めている。日本での本格展開は規制整備の進捗次第で、2030年代前半が現実的な見通しだ。
まとめ——精密発酵乳製品の「今」を体現する企業
Perfect Dayは「動物を使わずに本物と同じ乳タンパクを作る」という精密発酵の可能性を、世界で最初に商業規模で証明した企業だ。FDA承認・米国市場での商業販売・インド工場建設・グローバル規制申請と、精密発酵食品産業の最前線を走り続けている。
日本での販売はまだ先だが、世界市場では2026年Q4に年産2,000トン体制が整う。「牛のいない乳製品」が当たり前になる時代まで、着実に近づいている。
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【参考・出典】
- PricePlow「ProFerm™ by Perfect Day: Precision-Fermented BLG」(2026年7月)
- AgFunder News「Perfect Day says Gujarat facility on track for 2026 start」(2025年12月)
- Synthesis Capital「Perfect Day portfolio」(2026年)
- DataM Intelligence「Precision Fermentation Market to Reach US$180.45 Billion by 2035」(2026年)
- Market Intelo「Precision Fermentation Proteins Market Research Report 2034」(2026年4月)

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